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桃の三名人‐その参

princessese of mirai.jpg たわわに実った桃の重みで垂れ下がった枝が印象的。写真は「あかつき」。

桃の生産量第一位は山梨であることは、前回述べた。 では第二位は?

―福島県、がその答え。 

東京から新幹線に乗って福島駅で降り、そこから車を借りて、市外を抜け30分ほどのところに、3人目の名人が居る。高橋忠吉(ただよし)さんだ。

ご両親と3名で出荷の最中だったが、誘導されるがままに、コタツのある居間に上がらせていただいた。

「とおいとごろぉ、よぐいらっしゃいましたぁ。」 お母様に開口一番言われた。

…ふと、トトロのおばあちゃんを思い出してしまった。イントネーションがよく似ている。「かんたー!」 さておき。

忠吉さんはとても素朴な方で、なかなかしゃべってくれない。だが、なにやら、ご自分で品種を独自に開発し、登録もしているという。これまでに、5つの品種を登録して、販売もしているのだとか。 桃は、もともと、接木をして増やしたりすると、樹や果実の性質が変わり、新たな品種が生まれることがある。「枝変わり」だ。 ところが、この偶然できたものではなく、忠吉さんは、ご自分で独自に交配させて、新たな品種を作っている。なかなか出来ないし、しないことなのだ。

農薬の履歴も見せてくれた。

「1、2、3、4、5、6回…。こんなに少ないんですか?」 

「少ねーと、やっぱりつれーけどねー。」 桃は、デリケートな作物だから、農薬を少なくするのは、本当に難しい。ぼそっと忠吉さんは一言で片付けたが、実際、本当に大変なのだと思う。

しばらく打ち合わせをした後、圃場に案内していただいた。

 一、抜群の立地。

母屋の前の小道をくねりくねりと上がって行くと、とつぜん横手に視界が開けていく。忠吉さんの桃畑だ。 山の中腹を切り開いた畑は、ただただ広い。

「どのくらい面積あるんですか?」

「1町歩(=1ha)。」

ざくっと言って球場ひとつ分だ。果樹の、桃の農家さんで、それだけの面積を一箇所に持っている方は、かなり珍しい。 切り開いた土地だから、周りが森で、何の作物も無い隔離地帯だから、農薬の飛散(=他作物に散布した農薬が飛んでくること)もほぼない、と言って良い。母屋で農薬の履歴も拝見したが、桃の栽培にしては極端に少なかったのも、この立地のおかげだ。他の作物から病気や虫が移ることが少ないのだ。

ryouzen.JPG 奥に見えるのが霊山(りょうぜん)。

目の前に、霊山(りょうぜん)をいただき、畑自体も標高200m~300m。緩やかな傾斜地は、水はけもよく、果実の栽培には絶好のロケーションだ。

 

 二、二本仕立てと経験値。

nihonjitate.jpg 二本仕立てだと思うのだが、そんなに簡単ではない。 緩やかな傾斜が伝わりますでしょうか?

忠吉さんの剪定の仕方は、私が見たところ、主幹を二本伸ばす「二本仕立て」だ。

「二本仕立てなんですね?」

「結構色づいているように見えるますけど、どういうものを収穫しているんですか?」

「やっぱり赤いものですか?でも赤くなるのはこの銀のシートがあるせいでもありますよね?」

矢継ぎ早にいくつか質問してみたのだが、返ってきた言葉は

「そんなに簡単にわかんね。…経験だな。」

聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声だった。黙々と実を採り続けている。細身だが、しっかりした大きな背中だった。

 

 三、品種を開発。

「ハイ、これ。」

そこで収穫していた桃を箱に入れてくれ、急に差し出された。きょとんとしていると、

「お土産。 …みんなで食べてみて。」

「え、良いんですか?遠慮しませんよ!ありがとうございます! …品種は『きらら姫』ですか?」

「…新品種。…名前はまだ無い。」

まだ若い樹なので、実が大きくならないが、赤みが着くのが早く、糖度が高いという。収穫したては固めだったが、翌々日、会社で食べてみると、ほどよくやわらかくなっており、糖度が14度弱あった。いくつか計ったが、バラつきもほとんどない。優秀な桃だ。一箇所に固まった圃場だから、おそらくバラつきはとっても少ないのだろう。

sinhinshu.jpg 新品種。きれいに色が回っている。味も◎。

ougon.JPG こちらは有袋の黄金桃。

手まり姫、まなつ、きらら姫、スウィートビーナス(これだけネクタリン)、優香の夢。現在、登録されている忠吉さんの開発品種だ。これに、いただいた新品種も近いうちに加わることだろう。あかつきも何玉かいただいたが、肉質も糖度も申し分ない。あまり話が聞けないのは残念だったが、技術も、気候も、地理条件も良いし、情熱も感じた。

評価の高かった山梨の二人の桃の後、8月後半から、この福島の忠吉さんの桃が、店頭に登場する。お客様にどんな評価を受けるのか、今から楽しみだ。

tadayosi.jpg 「写真撮られるほど、あンまりいい男じゃないンだけど…」とはにかむ忠吉さん。

■ゆうぞら 8月25日ごろ~  ■黄金桃(無袋) 8月20日ごろ~ ■スウィートビーナス(ネクタリン) 9月2日ごろ~ ■優香の夢(大玉) 9月10日ごろ~  いずれも630円(税込)  特に忠吉さんのオススメはスウィートビーナス。 お見逃し無く。

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