松崎さん。りょくけんとは30年来のお付き合いになる。
今年、業界にインパクトを与えているぶどう品種がある。
―シャインマスカット。
地方の試験場などで開発されることが多い中で、シャインマスカットは国の試験場で生まれた品種。育てやすく、病気に強い。皮が薄いために、皮ごと食べられる。そして抜群の糖度と食味のよさを持っている。通常、地方の試験場が開発した品種であれば、その県が囲って、県にだけ広まるが、シャインマスカットは国が開発したため、3~4年ほど前に、全国一斉に各県の優秀な農家に配られた。ぶどうの苗は、3年ほどで、ある程度の房が着く。りょくけんの農家さんからも「3年後に、すごいぶどうが出るよ」と予告されていたので、まだ見ぬぶどうを、楽しみにしていたものだ。それが、今年。
シャインマスカット元年。
巷ではそのように呼ばれている。
青空が虚しい。
長野の上田の松崎さんの畑でも、順調に成育していた。今年が3年目―。
ところが、だ。
7月26日。数分間だけだが、突如として雹が降った。瞬く間に、親指大の雹が5~6cm積もったという。葉は穴だらけになり、ついてた実に雹が直撃、そこから傷み、腐った。
「今年は、本当に良いぶどうだったんだ。」
松崎さんが畑でぶどうを見ながらつぶやく。雹でやられた畑は、葉がぼろぼろで、いつもはやや暗めの畑が、とても明るく、青空が見えてしまう。ぶどうの粒は、北側はきれいだが、南側だけ、茶色の傷を多数残す。その茶色の跡から腐っていくのだという。
写真(右)が南側。写真(左)が北側。
ぶどうの、あのきれいな形は、人間の手によって作られたものだ。まだ小さいうちに、大きくなる姿を予測して、粒を2.8mm間隔にカットして、あの形を作り上げる。ところが、今年は雹が当たって腐った粒を切り落としたので、不恰好になってしまった。茶色のすすけたような跡もついている。
「去年は2房だけなって、家族で食べて、これはうまいぶどうだ、と。今年は60房なったんだが…。」松崎さんが力なく言う。
それでもくじけず、袋だけはかけていて、ひとつひとつの出来を見せてくれた。食べると、ホロリと崩れるゼリー質がとても美味しい。甘みもいっぱいだ。
ナガノパープル。
雹が当たったところから傷んでいく(中央の粒の白い箇所と左の粒)。こういった粒は間引きされ、不恰好になる。
「松崎さん、このぶどう、どうするんですか?」
「さあ、どうしようかね。」
たとえ、傷があったり、歯抜けになったような形でも、これならば、お客様にお出ししても良いはずだ。そう思って、店長に連絡し、取り扱いを決めた。
われわれは、農家さんと消費者をつなぐメッセンジャーでありたいと思っている。理由をきちんと説明し、美味しさはキープできていることを伝え、松崎さんの人柄ごと、このぶどうを世に届けたい。
■シャインマスカット 長野県上田市 10/3(月)~ 1週間ほど
■ナガノパープル 長野県上田市 10/3(月)~ 1週間ほど