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紀ノ川柿 黒ゴマが美味しさの証。  …?

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紀伊山地の入り組んだ道を進み、山の中腹あたりに、紀ノ川柿の生産者 宇城(うしろ)さんの家と畑がある。珍しく家と畑が隣接している農家さんで、周囲を森で囲まれた自然豊かな立地だ。

kinokawa.JPG 柿畑から紀伊山地を臨む。

紀美野町(きみのまち)は、今から4年前に、旧野上町と旧美里町が合併して生まれた町だ。全面積の75%は森林だという。うっそうと茂った木々が、とても印象的だ。

kinokawa (1).JPG ←柿畑からの景色。

宇城さんの畑は、標高400mくらいに位置しており、そのすべてが南向きの斜面。写真をどのように撮影しても、見上げた写真か、見下ろした写真なってしまうのだが、くだものにとっては、この急斜面はとても良い環境だ。水はけが良く、日光もよく当たるからだ。昼夜の気温差も大きくなり、植物は、その実の中に栄養価をたくわえやすくなる。

kinokawa (4).JPG ←すべて南西向き斜面。

「黒ゴマの多い柿は甘い」という通説がある。ある意味、本当で、ある意味、うそだ。果肉に散る黒ゴマは、渋の正体であるタンニンが目に見えるようになったもの。このタンニンが、目に見えないときは、舌に「渋」として感じる。古くから、干したり、焼酎などのアルコール※をたらし、「渋抜き」という作業を行い、渋柿を食用にしてきた。ただ、より厳密に言えば、アルコール分が、タンニンを包み込み、舌に感じさせなくなるのが、渋抜きの原理だ。包まれると、渋は目に見えるようになり、これが俗に「ゴマ」というわけだ。そのため、黒ゴマが多い→渋が良く抜けている=甘味が強いということで、黒ゴマが多いものが美味しいとされてきたのだ。

kinokawa (9).jpg ←左側が一般の平核無。右が紀ノ川。

このゴマを増やす目的で、考えられたのが、紀ノ川柿である。まだ樹になったままの柿に袋をかけ、脱渋剤を封入。未熟の、渋がまだ多いときに渋抜きを始めるので、タンニンが多く、可視化されると、黒ゴマがびっしりと付くようになる。熟度と渋抜きを同時に行えるので、味のノリも良い。一般的な渋柿は、どうしても渋抜きに時間を要するため、やわらかな食感だが、紀ノ川柿には歯ごたえがある。

「実は、自分はサラリーマンやってたんですわ。親父が残してくれたこの柿畑をやるために、脱サラして、毎年、勉強しながらやってますわ。ただ、この赤土土壌、南西向きの斜面。標高400mという気候条件は、柿栽培にはぴったりと言われます。」

kinokawa (8).jpg ←矢印の先の、角砂糖のようなものが脱渋剤。

会社勤務だったためか、宇城さんは、受発注などのやりとりもきっちりしている。毎年、いろんな気候条件だったり、災害があるが、品質はきわめて安定している。

今年でお付き合いして6年目だが、すっかりお店でもお客様が着いてくださっているし、美味しい、と評判だ。

「紀ノ川も、いつ袋をかけても良い、というわけではなく、10日間くらいのある一定の時期に、全部処理しないといけないんですわ。」

その時期は、家族総出で、朝早くから夜遅くまで作業に当たる。この急斜面で一日中の袋がけ。かなりの重労働だ。農家の高齢化に伴い、近所でもこの作業をやめる人は多いという。

「りょくけんさんとお取引を始めた時は9名いたんですわ。今では紀ノ川をやっているのは我が家一軒になってしまいました。」

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↑かけた袋を、開ける作業を、夏の暑い盛りに行わなくてはならない。

ずっと気になっていたので、思い切って聞いてみた。

「宇城さん。宇城さんの柿は、紀ノ川柿だから美味しいんですかね?それとも、宇城さんの管理とか、この畑だから、美味しいんですか?」

「うーん、おそらく、紀ノ川だからではないですねぇ。この土地と、微力ながら私どもの努力で…」と少し照れながらも、少し誇らしげに宇城さんがおっしゃった。

実際、他の紀ノ川柿を食べたことがあるが、そこまで美味しくなかった。

それを裏付ける証拠がもう一つある。宇城さんの干し柿だ。家族総出で行うが、限られた期間では処理しきれないものが出る。そのとき、かけ切れなかった柿は、品種である「刀根早生」や「平核無」※として出荷するのかと思いきや、かなり熟度を上げて干し柿にするという。これがまた美味しい。紀ノ川の処理をしていないのに、とても美味しかったのは、もしかして?、と気になっていたのだ。

kinokawa (5).JPG 宇城さんご夫婦。

昨年から、外で働いていた息子さんが家に戻り、宇城さんの心強い片腕になっている。私が訪ねたのは、もう4年くらい前だが、当時、奥さんが、「息子さんも戻ってくれたら」と畑から遠くに目をやったのを思い出す。

10月下旬から始まった紀ノ川柿も今週で終了予定。代わって、明日から宇城さんの干し柿が登場予定だ。ひとつの実を干したのではなく、四等分したものを干しており、しっとりした食感と、食べやすさが、社内でも評判だった。甘さは、どんどん強くなるはずだ※。ぜひ今のお味もお楽しみいただきながら、加工品ではあるが、味の変化をお楽しみいただければと思う。

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■紀ノ川柿  和歌山県 宇城さん 10月20日ごろ~11月25日ごろまで 1個 294円(税込)…大きさによる 

■宇城さんの干し柿  和歌山県 宇城さん 11月16日~1月中旬くらいまで 1袋 525円(税込)

※現在はアルコールではなく、炭酸ガスが多い。 いっせいに、密封された部屋で炭酸ガスを充填して、渋抜きが行われる。

※実際には、タンニンは熟度が進むにつれて、消えていくので、黒ゴマの多さは、糖度とは比例しない。渋抜きを始める時点で、残っていた渋が多かった、と考えられる。

※刀根早生、平核無…刀根早生(とねわせ)と平核無(ひらたねなし)と読む。渋柿の代表的な品種。刀根早生は、刀根柿とも呼ばれ、平核無の枝変わりで、収穫が平核無よりも2~3週間早い。

※最初に加工したものはやや甘みが劣る。だんだんと熟度の高い原料になるので、さらに甘みがのる。

 

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