赤土がパラパラとついたままの細いにんじんを差し出された。
「ちょっと拭いて食べてみてください。」
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―6年前。初めて会長に会った時にも同じようなことを言われた。
「土つきのまま食べてください。その方が香りが楽しめます。」
美味しかったけれど、口の中がジャリジャリしたのを憶えている。
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そんなことを脳裏に浮かべながら、ちょっと拭いて食べてみる。
「美味しい~」
肌はごつごつとして美しくないが、はっきりと舌に伝わる甘みが美味しい。
「あ~本当ですか。」
矢野さんが、私の反応に安堵したような表情を浮かべ、続けた。
「『ペッ、マズい』って畑で吐き出されたことがありましてね。トラウマなんですよ。」
人懐っこい笑顔が消えて、少し真面目な顔つきになった。
「浜松には、会長ファンが多くて、その料理人の方たちが畑に来た時にですね、永田さんのにんじんを食べ慣れていたんでしょうねぇ。食べた瞬間、ペッと出されたんです。」
矢野さんは、浜松で、ハウスを中心に、西洋野菜をいくつもつくっていて、レストランさんを中心に納めている農家さんだ。
「このにんじんは、もともとヨーロッパの品種で、もともと細身なんです。それをメーカーが密植しやすいように加工して譲ってくれたんです。ただ、ここは柔らかい砂地ではないから、どうしても肌がごつごつになってしまうんですけどね。」
昔は、美味しくなかったのかもしれない。それを、たゆまぬ努力と研究で、この美味しさになったのが、窺い知れる。
矢野さんには、かねてより、サラノバレタスの冬作を依頼している。奈良の山浦さんたち。長野の由井さん。この3地域で安定して栽培できれば、一年を通して、お客様にサラノバレタスを提供できると踏んでいる。実際に、矢野さんは今もサラノバレタスを栽培しているが、土耕の面積はまだ少ない。
スティックにんじん以外の野菜も見せていただいた。
すぐ隣の畝には、中国の高級野菜「ガイラン」というブロッコリーニ(スティックセニョール)の親にあたる野菜がある。ブロッコリーニを一回り大きくしたような野菜で、大きさに似合わず、柔らかく甘い。
見慣れない大きな高菜が植えてあるので、聞くと、
「大型の高菜は、個人的に好きでして…。でも、これは、葉ではなく、ここを食べるんです。」
と紹介されたのは茎に”はびこっている”、腋芽(わきめ)。「高菜の、芽キャベツ」と表現できるかもしれない。「博多つぼみ菜」という名称で、福岡で力を入れている野菜だ。パキっと収穫してくださり、食べてみた。ブロッコリーの茎のような食感に、ピリッとした辛みがある。春の香りにあふれた野菜だ。炒めても美味しそう。
外に出ると、先ほど触れたサラノバレタスが植えてあり、その続きに、チーマディラーパがある。イタリア版 菜の花だ。こちらも生のままムシャムシャと食べる。美味しい。春のお味だ。
道路を渡ったところにある別棟のハウスには、黒キャベツが所狭しとあり、その隣には、うっそうと茂ったソラマメがあった。心なしか、ひょろっとしている。
「これは、ファーべなんですよ。」
「イタリア品種ですかっ」
イタリア語で、ソラマメのことを
「ファーべ」と言う。とれたてのソラマメを、イタリアでは、オリーブオイルと塩で、生のまま食べる。現地の、これも春のお味だ。
浜松から届く春の香り。
新しい季節。ぜひ、お楽しみください。
■スティックにんじん 静岡県産 1袋 263円
■ファーべ 静岡県産 1袋 630円
■つぼみ菜 静岡県差 1p 399円