「国産のブラッドオレンジがあったら、売れると思うんですよね。」
10年くらい前だったか、自分の中の、戦略的商品として、パプリカ、スティックセニョール、スナップエンドウを周年化、アボカド、ブラッドオレンジ、グレープフルーツを国産化できないか考えたときがあった。
残念ながら、すべてがうまくいったわけでないし、実現できても、その通りに良く売れたかといえば、そういうわけでもない。
「あるよ。」
同僚だった、柑橘の指導員としてスペシャリストで、顔も広かった道法さんが、私にさらりと言ったのを覚えている。
「ただ、高いと思うんよ。電話番号教えるからちょっと聞いてみて。」
それが、愛媛の矢野さんだった。
ちょっと話しみて、すぐに行きたくなって、愛媛に出張に行ったのを覚えている。
4月に入っていたから、すでに果実は樹にはなくて、それでも、圃場を案内してくださり、取り残しで、鳥に食べられたものだけ、カメラに収めた。
来年こそは、とまた来て、撮影したっけ。
矢野さんは、奥さんは経営者としてやり手で、柑橘栽培の傍ら、近所の奥様方を結集して、会社を作り、柑橘の加工販売を行う。
最近でこそ、そういう方は多いが、10年前はまだまだ少数派だった。
だんなさんは、優しい顔をしていて、長い髪を後ろで束ねていて、仙人のような印象の方。
畑のある「真穴」は”まあな”と読み、真網代(まあじろ)と穴井(あない)という地域を合わせて、そう呼ばれる。
日の丸、川上と並んで、日本の三大産地ブランドのひとつである。
愛媛県の中でも突出した品質のみかんを産することで知られている。
瀬戸内海というか、四国と九州の間の海に突き出た半島の中の入り組んだ地域の中でも、南西向きの場所だ。
温暖で、三つの太陽によって育つことで、優れた品質になる、といわれている。
三つの太陽とは、太陽と、切り立った斜面の段々畑を支える石垣からの照り返し、そして海からの照り返しだ。
山の上を上ったところにある、矢野さんの畑は、草もきれいに整備されていて、除草剤代わりの「オキザリス」という黄色の花が咲き、海が見渡せてとても気持ちが良い。
昨今進んでしまった温暖化を逆手にとって、みかんに代わる特産品を、とイタリアのシチリアからブラッドオレンジを導入したのが1990年代の話。
ただ、やっぱり気温が足りない分、収穫がどうしても遅くなる。
3月15日。
この日程が矢野さんの基準になる。
他の産地では、2月15日ごろから収穫を始めるが、そうすると、酸が強い。
すっぱいのだ。
今年も例によって、3月15日に電話してみた。
「おお~ちょうど今日とっとるところわい。」
と矢野さん。
「来週つくように発注してもよいですか?」
「う~ん、ええやろ、がんばろうわい。」