りょくけん東京

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みかん 産地情報 社長日記

「人の足では登れん。」

「え?」と一応驚く私に、顔色一つ変えず川田さんが言う。

「人の足では登れんから。」

確かに傾斜角度は70度くらいあるのではないかという、ほぼ垂直の、岸壁のようなところを上がらねばならない。
しかも土質は赤みを帯びた礫質。
ほろりと崩れそうな土目である。

モノラックは、先頭にエンジンがあり、その後ろに二つの荷台がある。
荷台は鉄のアミアミ。
本来ならばみかんのコンテナを積むのだろう、そこに、クッションを置いてくださった。
「さっき家でとってきたがよ。大森社長はここに乗って。」

正直に言えば、私も初めて乗るわけではないので、クッションには恐縮しながら、素直に従った。
やっぱり、なんだか、面白そうである。

ワクワクしていると、奥様から、「ちゃんと足を前に組んで。出したらいけんよ。そして、ちゃんと前のところをしっかり持って。」と指導があった。

川田さんがエンジンのひもを勢いよく、何度か引っ張ると、エンジンが稼働した。

ブロロロロロ。

レバーを動かすと、モノラックはゆっくりと着実に進みだした。
スピードはかなり遅い。
それはそうである。

人にせよ、みかんにせよ、それなりの重さのものを運ぶ。
そして、ずっと傾斜。
この坂を3人乗せて上がれるのか?と一抹の不安を感じながらも、モノラックは一本のレールをしっかりとグリップしながら進んでいった。

最初の、藪を抜けると倉庫小屋があり、一旦灯油をエンジンに給油。
再び走り出し、みかんの木でできたトンネルを抜けると、目の前には、みかん畑と空が広がった。

少し傾斜が緩やかになったところで、後ろを振り返れば、海が見え、これまた空と海の青が美しい。

片手はモノラックをしっかりとつかみながら、もう一方の手では、カメラを撮っていたら、「ほら、カメラばかり撮っていたらいけんよ!しっかりつかんでて。」と奥様から再度指導が入った。

「はい!でも、とてもきれいで…!」

とはいえ、ほぼ断崖絶壁のようなところである。
確かに、この左手を離したら、恐ろしいことになると思った。

5分くらい上がったところで、川田さんがモノラックを停め、全員の無事を感謝しながら、私も荷台から降りた。

そのレールから左がすべて川田さんのみかん畑。

川田さんのみかん畑

「ここで、標高が40mくらいやな。その少し上、50mくらいがうちの畑。あそこに農道が通っておろう。あそこまで高うなると、甘いみかんにならん。寒さがきつすぎるんよ。」
「へえ~」

「そして、この土質。花崗岩がまざっていての。触ってみい。こうやって崩れる礫質の土が、みかんを旨うするがよ。」
「へえ~」

そういえば、静岡の三ケ日でトマトを栽培してもらっていたころ、上司からこの土質の感じを教えてもらったことがある。
お師匠も、この礫質の赤土を見て、三ケ日の農家さんにトマトの生産を依頼したのだ。
「今から中島へ行くんやろ。あそこは真砂土(まさど)と言って砂質じゃけの、みかんの糖度は上がらん。一時は”島みかん”言うて値も高こうなったが、だんだん悪くなって、今は雑柑を作りよる。」

雑柑(ざっかん)とは、いささか失礼な呼び名であると私は常々思っているのだが、業界では、みかんの後に出てくる中晩柑類のことを、総じてそのように呼ぶ。
なんとなしに、川田さんに、みかん農家としてのプライドというか、みかんを栽培していることに誇りを持っていることを感じとった。

「来年は不作ぞ。」
「え?」

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