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きたロッソ 斜里

斜里の夜。

新得町から斜里町まで230kmほど。
車で4時間弱かかる。
3時過ぎには新得町を出て、斜里町の宿に着いたのは19時半ごろだった。

その間、ずっと、真っ暗な中を走ってきた。
対向車と前後を走る車のライトしか、目には入ってこない感じだった。
ようやくたどり着いた宿も、これまた真っ暗。
ロビーには誰もおらず、宿の周りにも誰もおらず、とても心細くなった。

宿の電話を調べ、電話を掛けると、奥の方で電話が鳴っている。
「すみません、今日、予約をしているものなんですが、今いるんですが、どうすれば良いのでしょうか?」

間もなく、奥から男性がやって来て、泊る部屋に案内してくれた。

何もかも、自由に、勝手にやってください、というスタイルのようで、風呂が温泉である以外は、何にもない宿だった。

約束していた農家 堀田さんは、夜、斜里に着いたら、ご飯でも行きましょう、とお誘いを受けていたので、電話をしてみた。

「あ、着きましたか!僕もちょうど今、家に着いたところなので、じゃあ、今から30分後に迎えに行きますね。」


ほどなく、奥さんが運転する車に乗った大きな体格の男性が宿に迎えに来てくださり、名刺交換。
夜の斜里町に向かい、焼き肉をごちそうになってしまった。
奥さんは、私たちを送ると、帰宅。

二人で、お互いの自己紹介。
だったけれど、ほとんど、堀田さんがしゃべっていて、私は聞き役だった。

「いやね、嬉しいんですよ、こうやって声かけてもらって。農業ってこういうもんなんじゃないかなって。僕が作ったもので誰かに喜んでもらうっていうか。農家としての初心に帰った気がしています。」

堀田さんの畑は90ヘクタール。
小麦、そば、大豆、てんさい、じゃがいも、にんじんが主力だ。
大型の機械を使って、小麦やそば、大豆を作っていれば、安定した収入になる。
単価としては高くは決してないが、行政で価格を決めているから、あとは掛け算。
たとえ、キロ当たり10円の作物でも、1ヘクタールで100,000kg取れれば、100万円の収入になる。
それが90ヘクタールあれば、その90倍。
9千万円の収入を年間で得ることができる。

天候には左右されるものの、決まったことをガーっとやっていれば、収入はあるわけだ。

「でもね、それじゃなんかロボットみたいで。」

堀田さんにコンタクトをとったのは、きたロッソと言う新品種を、堀田さんが栽培していたからだ。

日本の赤インゲン豆は、大正金時などに代表されるように、煮詰めていくと、煮崩れし、色が抜けていく。
アメリカやメキシコで食べられているレッドキドニーは、色落ちしも煮崩れも少ない。
サラダにするには、赤い色がきちんと残る豆が必要なのだ。

きたロッソがきっかけだったけれど、こうしてお会いできたのも、何かの縁だ。

「なんか一緒にやりましょうよ。何か作ってほしい豆とかないですか?」
「あります、ひよこ豆!」
「ひよこ豆ですか。やりましょう。種を手に入れて来年に向けて作ります。レンズマメも欲しいんじゃないですか?」
「ほしい!」
「やります。種屋と相談して、種を手に入れてみます。」

夜もだんだんと更けていき、堀田さんの武勇伝をいくつも聞いて、すごいなあ、すごいなあと感心しきりだった。
そして、そのままタクシーで宿まで送ってもらってしまった。

いかんな、まだ全然貢献していないのに…。
元上司に怒られる…。

「明日は、何時ごろ、畑に伺ってよいですか?」
「何時でも。何時でも畑にいるんで大丈夫ですよ。」
「…。じゃあ、9時にお伺いしますね!」
「分かりました!」

そう言って、宿の前で別れた。

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