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原生地を訪ねる:
文 池部誠 撮影 望月久 |
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| ドーバー海峡の野生キャベツ |
結球しないキャベツ:ケール |
世界には中国、インド、中央アジア、近東、地中海沿岸、エチオピア、中米、南米という8ケ所の作物が栽培され始めた土地があります。
私はこのうち、エチオピアを除いた7ケ所の地域を訪ねました。大部分が日本とかなり違う環境ですが、一番印象に残ったのは、どの作物の原生地も肥沃な土地ではなかったということです。
キャベツの野生種などは岩壁にも生えていました。ここではその中でも一番変異に富んでいる南米を取り上げます。
ほとんど雨が降らない西側(太平洋側)が生んだ野菜はトマトです。トマトの野生種は全部で8種ありますが、皆アンデス山脈の西側(太平洋側)に生えています。私が見てきた「チレンセ」というトマトの遠い祖先は標高2000メ−トルの地帯に生えていました。近くにはほとんど植物は生えておらず、途中で見た植物はサボテンくらいのものです。川はありますが、水が流れるのは山で降った雪が解けて流れる時だけで、私たちが訪れた時はカラカラに乾いていました。この地域の年間の雨量は驚くことに10ミリ程度にしかなりません。しかし、太平洋の湿気が入り込み、年間平均湿度は80%を超えています。そのためにトマトは根ばかりでなく、葉や茎から産毛を出して空気中の水分を吸収しています。近くに岩があれば、熱帯ながらも乾燥しているため、夜冷えて結露した水分を吸収します。この乾燥した地域に生えている「チレンセ」は、一見過酷と思える環境なのに大きく力強い花を咲かせていました。日本の栽培トマトの花とは比べものにならず、後に見たメキシコの野生トマトとくらべてもはるかに立派な花でした。8種の野生トマトは食べられないものが多く、栽培した様子もありません。
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| 乾季の乾燥しきった河原に生える野生トマト「チレンセ」 |
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食べられる野生トマトはメキシコにも生育地を拡げていて、そこで栽培化されたというのが定説になっています。メキシコの野生トマトは水辺に生えていました。ベル−の枯れた河原に生えていた野生トマトは、水のある時に下流に流され、水の豊富な環境でも生きていけるようになったのでしょう。
ただ、水辺といっても日本のように湿度は高くありません。山おろしの冷たい風が吹き、夜はぐっと気温が下がる乾燥地です。メキシコでは食用ホウズキが先に栽培化され、それが似た形のトマトの栽培化につながったと考えられています。このトマトは糖度6度で、土地の人が空を飛ぶような気分になれると言うとおり、とてもおいしいトマトでした。
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| 水辺に生えるメキシコの野生トマト「ケラシフォルメ」 |
トマトの生えているアンデス山脈を東に登れば、万年雪を頂く6000メ−トル級の高山が並んでいます。その手前の標高3〜4000メ−トル帯が野生ジャガイモの生育地ですが、一番高いところでは標高4650メ−トルの地点で発見されました。ジャガイモは高山植物だったのです。この辺の年間雨量は800ミリ程度です。この熱帯の高山植物だったジャガイモが日の長いヨ−ロッパに馴化するのに2〜300年かかりましたが、同じ熱帯原産でも低地の産物だったサツマイモと違って冷涼なヨ−ロッパには向いていたのです。しかし、やはりジャガイモは故郷の高地のものが美味しいようで、ペル−の首都リマは標高ゼロメートルですが、リマの人がインカ帝国の首都だった標高3400メートルのクスコに行くと、クスコのジャガイモを買って帰るそうです。
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| ジャガイモはアンデスの高山植物だった |
ところで熱帯高地は昼間は高温でも夜になると気温はぐっと下がります。こうした風土を利用して作られたのが、「チュ−ニョ」と呼ばれる乾燥ジャガイモです。秋に収穫したジャガイモを外に置いておくと、夜に凍ります。それが昼間になると、凍った部分が溶けて水になります。1週間程外に置いておくと、硬かったジャガイモですが水分の凍結と融解を繰り返すことによりブヨブヨになります。それを足で踏んで水分を出して乾燥ジャガイモにします。こうすると数年間保存ができ、飢饉のときにも安心できたのです。
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| これは皆アンデスのジャガイモだ |
2〜3000メ−トル帯にはトウモロコシが植えられています。トウモロコシは中南米一帯で栽培されていて、どこが原生地かは分かりません。祖先である野生植物が見つかっていないのです。
アンデス山脈を越えて東に下るとアマゾンの熱帯雨林になります。トウガラシやピ−マンの原生地です。赤いからといって辛いと決まっているわけではなく、緑色だからといって辛くないわけでもありません。
(池部誠紹介
1942年生まれ。出版社勤務を経て、現在ノンフィクションライター。1982年から1989年まで世界の8大作物原産地の内、7か所を訪れ、「野菜探検隊世界を歩く」「野菜探検隊アジア大陸縦横無尽」「野菜探検隊世界を歩く(文庫版)」の著書がある。)
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