りょくけん東京

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子噺

社長はつらいばかりでもない3。

 ホテルのバイキングで、サラダコーナーの野菜を選んでいた。

「長細い赤いミニトマトが甘くて美味しいですよ。」

コック帽をかぶる若い方が教えてくださった。

ーアイコ※かな。

「なさそうですね、、」

色とりどりのミニトマトが入ったボウルには、入っていそうで入っていなかった。

適当にやり過ごしていくつかのミニトマトをトングでお皿にとった。

「トマトも、形や色によって、甘さもやわらかさも違うんですよ。」

「知ってます~」思わず口に出てしまった。

「すみません、野菜屋なんです。」

あ、しまった、と思いつつ、なんとかやり過ごそうと、にこっと笑った。

その瞬間、脇を身長136㎝の影がさっと通り

「社長だよっ」

と私を指さしてにやけながら、さっと去っていった。

長男だった。

「え、社長さんなんですか!?失礼しました!」

「あ。いや…。」

数十秒の間の出来事だったのだけれど、なんだか…。

スタッフさんへの気まずさや、自分の対応のまずさやら、長男の間の悪さやら、長男が自分に似ている感じやら、長男のにやけた感じが、私に対してまんざらでもない敬意みたいなものを感じるやら。

複雑だった。

まあ、彼らのリスペクト(?)に応えられるよう頑張ろう。

※長卵形の赤いミニトマト品種。甘みが強く、ここ数年、人気を得ているミニトマト。

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